植物の病気を起こす病原は、菌類、細菌、ウイルスなどをあわせると1万種を越え、植物に対して絶え間なく感染を繰り広げている。地球上で、数万種にのぼる植物の病気が知られており、我が国だけでも約6,500種の病気が存在する。植物の病気の70%以上は菌類、つまりカビの感染によって起こされる。植物の病気の発生は、気象条件に大きく左右され低温や日照不足などの悪条件が重なると激発し、今日でも開発途上の地域に飢餓の苦しみを与える。科学立国を自負する日本ですら、冷夏は、いもち病などによるイネの病気を助長し、「平成の米騒動」が勃発したことは記憶に新しい。 人類は、これまで殺菌剤の開発や抵抗性植物の育成など効果的な防除法を確立・普及させ、植物の病気を最小限に抑えることで、今日の安定した食糧生産体制を築き上げた。しかしながら、これらの防除法に対する過度の依存が、農薬の過剰使用による環境汚染や薬剤耐性菌の出現、栽培品種の画一化による病気の激化など、新たな問題を産み出し、今日その対策に苦慮している。 このような状況の中、私たちの研究室(植物生体防御学)では、環境負荷の軽減化を念頭においた有効かつ持続的な次世代病害防除を構築するために5つのストラテジーを立て教育研究を進めている。①植物病原菌の薬剤耐性機構を分子レベルで解析し耐性化しにくい薬剤や耐性克服剤等の新薬設計を目指す研究。②遺伝子工学手法を用いて圃場抵抗性を利用した持続型抵抗性植物を作出するとともに、外来遺伝子の発現機構の解析から発現制御型で生態系負荷の小さい次世代組換え植物の創成を目指す研究。③有用なエージェント微生物の探索ならびに有用形質を付加した組換えエージェント作出により安定した植物病害のバイオコントロール技術の開発を目指す研究。④植物病原菌の病原性分子機構を解析しその発現系をターゲットにした非殺菌性の新薬剤設計を目指す研究。⑤植物病原菌の生活環に関する疫学的研究。
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